第12号(2009年11月20日発行)

●第13回臨床解剖研究会の報告

 第13回臨床解剖研究会は平成21年9月26日(土)に当番世話人伊藤正裕教授(東京医科大学人体構造学講座)により,東京医科大学病院臨床講堂にて開催された.実行委員長の宮木孝昌准教授を中心に教室員の協力はもとより,13大学の関係者の協力を得て運営された手作りの研究会であった.解剖実習を終了したばかりの東京医科大学2年生の学生も多数参加した.24題の一般演題の他,モーニングセミナー,ランチョンセミナー,シンポジウム,教育講演が行われ,午前8時50分より午後6時まで有意義な発表と討論が行われた.閉会の折,解剖実習での破格を考察を加えて一般演題で発表した医学科の学生2人に当番世話人の伊藤教授から賞が贈られた.
  終了後の懇親会でも和やかな雰囲気で情報交換,ディスカッションの輪が広がった.詳細は学会報告記(3頁)を執筆いただいたのでご参照ください.

●第13回世話人会の報告

・第13回世話人会は研究会前日に東京医科大学本部棟第1会議室にて開催された.会員数は4月現在施設会員102,個人会員87,賛助会員3で,個人会員が少数増加した.
・本研究会設立メンバーであられた高橋 孝幹事が去る5月に逝去されたことが報告され,黙祷を捧げた.
・本年度は役員改選の年にあたり,佐藤達夫会長,寺本龍生・嶋田 紘・三輪晃一・大谷 修・竜 崇正幹事,島田和幸監事の継続が提案され承認された.2期4年務められた平山廉三監事に代り衣袋健司世話人が推薦され,承認された.
・次期第14回当番世話人に松井 修世話人(金沢大学大学院経血管診療学教授)が推薦され,承認された.
・平成20年度会計報告は次頁の通り承認された.
・本研究会も設立以来14年を迎え,ワーキング・グループを作り将来計画を検討してもらうことにした.

●学会報告記

第13回臨床解剖研究会を開催して
当番世話人 伊 藤 正 裕 (東京医科大学人体構造学教授)
実行委員長 宮 木 孝 昌 (東京医科大学人体構造学准教授)

 第1回臨床解剖研究会は,今から12年前の1997年に発足してその年の7月に東京医科歯科大学で開かれました.「この研究会は,外科,泌尿器科,産婦人科,耳鼻咽喉科,整形外科,放射線科,リハビリテーション科などの臨床からの問題提起に対して,解剖学的研究によってこたえ,さらにそれを臨床の場にフィードバックしていくことにより,医学,医療の発展に貢献することを目的としております」という発足時の言葉があります.
 このたび,光栄にも第13回臨床解剖研究会を2009年9月26日(土),東京医科大学病院臨床講堂において開催させていただきました.皆様のご支援とご協力のおかげで,臨床解剖研究会にふさわしい多くの演題と,200人(うち学生100名を含む)の参加者を賜りました.ここに厚くお礼を申し上げます.
 今回の研究会では,今までテーマとして取り上げられてこなかった「神経の臨床解剖」のシンポジウム4題をはじめ,一般演題24題,教育講演,モーニングセミナー,ランチョンセミナーのご講演と活発なご討論をいただきました.午前8時50分から佐藤達夫会長に開会のあいさつをいただき,その中でこの会場はイタリアのパドヴァ大学の解剖講義実習の階段教室を思い起こさせるとのことでした.午前9時からモーニングセミナーとして「漫談調:癌の切除と郭清・温存のための"原形"解剖学」について平山廉三先生(埼玉医科大学客員教授)に講演いただきました.その後,一般演題のセッション(12演題)に続き,ランチョンセミナーとして「子宮筋腫に対する内視鏡を用いた機能温存手術」を井坂惠一先生(東京医科大学産科婦人科学教授)に講演いただきました.この後,金沢大学放射線医学の松井修先生より次回第14回研究会についてアナウンスをされました.午後1時20分から,一般演題のセッション(12演題)に続き,臼井正彦先生(東京医科大学学長)よりあいさつがありました.午後3時30分からシンポジウム「神経の臨床解剖」として,「神経内視鏡で観察した脳室・脳槽周囲の解剖」を岡一成先生(幸手総合病院副院長),「舌下神経移行による急性期顔面神経麻痺手術」を梁井皎先生(順天堂大学形成外科学特任教授),「頚椎におけるoverstretch mechanismの病態」を遠藤健司先生(東京医科大学整形外科
学講師),「腰・仙部画像診断のための局所解剖」を青田洋一先生(横浜市立大学運動器病態学准教授)に講演いただきました.午後5時から,いつものように教育講演「消化・呼吸器に関連する脳神経のマクロ解剖」を佐藤達夫会長(東京有明医療大学学長,東京医科歯科大学名誉教授)にご教示いただきました.午後6時近くに,隣接した懇親会場のカフェテラスに移って,内野滋雄先生(東京医科大学名誉教授,元日本解剖学会理事長)の乾杯のあいさつで懇親会が始まり,お酒を飲みながら解剖談義が交わされました.午後7時過ぎに閉会となりました.最後になりましたが,皆様のますますのご活躍を心よりお祈り申し上げます.

●学会報告記

アメリカ臨床解剖学会(AACA)に参加して
山 木 宏 一(久留米大学医学部解剖学講座 肉眼・臨床解剖学部門教授)

 2009年の第26回アメリカ臨床解剖学会がオハイオ州のクリーブランドで開催された(2009年7月14〜17日).その学会会場は,クリーブランド市内の Cleveland Clinic に隣接する InterContinental Hotelであり,口演会場とポスター会場の2会場をメイン会場に開かれました.講演会場は,大変豪華な会場で,席ごとに備え付けのマイクがあり,素晴らしい会場でありました.参加者は北米以外にヨーロッパやアジアからの参加者もあり,日本からは,私たち久留米大学からの2名の他,毎年参加されている東京医科歯科大学名誉教授佐藤達夫先生と同大学の坂本裕次郎先生が参加されていました.
 私は解剖学教育,特にアメリカやヨーロッパにおける解剖学教育がどのようになっているのか興味があり,2003年のグラーツ(EACA),2005年ニューヨーク,2007年ラスベガス,2008年トロントの学会に参加し,毎回1〜2題のポスター発表とともに口演やポスター発表で勉強させて頂いています.毎年7月のこの時期の学会は前週までで学内での解剖学実習がすべて終了していて,実習に重ならないために教室の先生達と出席しています.今回は「A case of a middle mesenteric artery」という演題で発表しましたが,これは2007年の久留米大学医学部学生解剖学実習で遭遇した中腸間膜動脈の珍しい一例を発表したものです.数名の先生方に質問や貴重なアドバイスを頂き,今後の実習で遭遇する血管破格に参考にさせて頂きたいと思います.
 佐藤先生は,「DVD demonstration of topographic anatomy of axillary lymph nodes for breast cancer surgery」というタイトルで今年もDVDを使われた口演でした.乳腺外科では重要な腋窩部分のリンパを順序良く解説を加えられながらのすばらしい剖出所見であり,会場からは拍手喝采の口演でした.その午後には,佐藤先生の呼びかけで今回日本から参加した4名でダウンタウンに出かけて昼食をとりながら,解剖学会の話や久留米大学の話や前身の解剖学第一講座の名誉教授である竹重順夫先生の篤志解剖の全連の会長時代の話などを3〜4時間ほど,佐藤先生と初めてお話しすることができて大変嬉しく思いました.
 クリーブランドの印象は,以前は人口も多く全米でも有数の都市であったようですが,最近は不況のせいか人口も減り,ダウンタウンの町並みにも店を閉鎖しているところが数多く見られました.そんな中で学会が行われたCleveland Clinic は,広大な敷地にいくつもの建物があり,その敷地内にInterContinental Hotelは2つ存在し,患者やその家族などのためのホテルをSuitesとよび,我々の宿泊や学会場のホテルとは別の場所にありました.Cleveland Clinicには多くの臨床研究者が世界中から留学しているとのことで,久留米大学医学部の循環器外科の先生と会う機会をもち,夕食やメジャーリーグ観戦ができたことがいい思い出になりました.
 近年,我が国ばかりでなく欧米でも医学教育における解剖学教育の位置づけや実習(肉眼解剖学実習や組織学)の在り方など問題になっています.とくに,我が国においては実習にかかわるスタッフ不足は慢性的な問題であるようです.私が久留米大学の解剖学教授に就任して直ぐに2講座が1講座になり,名称を肉眼・臨床解剖部門と名付けました.これはまさに解剖学実習を中心とした研究および教育を行う部門であることを学内だけでなく,学外にアピールしたものです.幸い私の教室では私以外に今回発表した嵯峨堅准教授の他,3名の助教と2名の大学院生で行っています.これらのスタッフで毎年,日本解剖学会総会と九州支部会,そしてこのAACAで発表することを目標に実習や研究を行っています.また,昨年末から私と嵯峨准教授は佐藤達夫先生と大分大学の三浦真弘先生のお二人にAACAにご推薦を頂き,本年6月に正式にAACAの会員になることができました.両先生には大変ありがたく存じています.来年はハワイでの開催ということなので日本の臨床解剖研究会の多くの方が出席され,多くの演題が出されることを願っています.また,佐藤先生には今回このような報告記を書く機会を頂きましたことを厚く感謝申し上げます.

●学会報告記

第10回EACA(欧州臨床解剖学会)
秋 田 恵 一(東京医科歯科大学臨床解剖学分野准教授)

 2年ごとに開催される欧州臨床解剖学会がトルコのイスタンブールで2009年9月2日から5日まで行われた.会場はイスタンブールの新市街地にあるトルコ軍事博物館の講堂であった.
 初日のオープニングセレモニーの最後に,オスマントルコ軍の楽隊であったメフテルの演奏が行われた(図1).この演奏は軍事博物館でしばしば行われるとのことである.軍事博物館も,かなりの規模であるので,歴史に興味がある方には非常に興味深いものであろう.
 会場の正面での参加者の集合写真が下にある(図2).参加者は解剖学教室でとくにマクロ解剖の教育に関わる人や研究生・大学院生がほとんどであった.ただ,ヨーロッパの解剖教育に関わる人には外科医が多いため,純粋な基礎の学会とは少々異なる雰囲気であったが,日本の解剖学会のマクロ解剖部門の雰囲気に近かった.今回は,トルコの臨床解剖学会とのジョイントの開催となっていたため,地元トルコからの参加者や演題が多かった.その他の欧米の参加者のかなりは,この学会やBACA(英国臨床解剖学会),AACA(米国臨床解剖学会)などで見かける方が多く,サロン的な雰囲気があった.韓国や中国からの参加者が増加する傾向が見られた.
 さて,学会はPlenary lectures のセッションが2つ(8題),シンポジウムが3つ(15題),口演発表114題,ポスター発表388題とかなり多くの演題数であった.最近の解剖の学会の大きなテーマの一つである教育や教育法,示説法や標本展示法,3DやCGを用いた教材などの発表も多かった.もともとこれらは実習体の不足からきたものであったが,世界的にも実習体が充足してきたにもかかわらず今度は教える教員や標本作りのできる人の不足という問題が起こってきたことから,やはり教育や示説法については今後増加するであろうと思われる.臨床解剖研究会の佐藤会長が講演されたリンパ系や自律神経系のビデオによる示説に匹敵するような,精細に剖出したものをもって説得力とするような発表が他に見られなかった.佐藤会長が発表された会場は軍楽隊の演奏があったところと同じであったため,舞台が広すぎて演台と客席の間が非常に遠かったのが残念であった(図3).
 発表演題を見るに,臨床的なテーマの選択や興味,そしてそれらに対する解剖学的な解決へのアプローチというものについては,日本の臨床解剖研究会のほうが数段先を行っていると思われた.しかし,教育システムや標本,示されるイラストなどに,欧州の解剖の伝統を踏まえたものが散見され,非常に刺激になった.
 学会が終わった2日後くらいからイスタンブールは80年ぶりの大雨になり,あちこちで洪水がおこったとのことであった.幸い会期中は晴天に恵まれた.懇親会はアジア側とヨーロッパ側の間にあるボスポラス海峡での船上パーティーで,美しい夜空と夜景とともに素晴らしい思い出である.

 

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